番組から
2023/07/22
さすらう風 MIXTAPE – 夏と記憶のあいだで 丘の上に立ち、ひとり海を見下ろしていた。 潮は遠くで光りながら、寄せては返す。 そのむこうに、うっすらと島影が浮かんでいる。 かすかな音が聴こえる。 ビーチハウスのデッキから流れてきたのか、 それとも風が木立をくぐりぬけてきた音なのか。 判然としない。けれど、どちらでもいい。 どちらも姿を持たず、懐かしく、そしてすぐに過ぎてゆく。 ふと気づく。 これは音楽を聴いているのではなく、記憶のほうが何かを聴いているのだ。 少年のころに駆けた海岸線。名も知らぬ友の笑い声。 夜の波に沈めた、あの頃の言葉たち。 それらが風に攪拌されて、音になって立ち昇ってくる。 夏の海。風はまだ、どこかへさすらっている。松浦俊夫